ただいま、という名前の人に
霜天

(伸ばされていたのは僕らではなく、日の光だよ)

そう、
つぶやいていたのは誰の横顔だっただろう
同じ服装の顔と顔とが集まっていく、丸顔の時計の下は
いつも降り積もるばかりだった
きょうしつ、そう呼んでいた立方体の中
何を残せる、というのだろう



テリトリー、そう呼んで
僕らは跳躍で、そこで千切れて
ただいまという人
僕らは飛び込んで



優しい歌を君が歌えば
肋骨の間から吸い込まれていって
背骨にまで、響いた
そこから呼吸が漏れ出していくので
どうにも苦し、かった
未来、そんなふうに呼んでいた選択肢
交差するばかりで信号もないのは
どこかで間違えていきたいからで
もう
覚めない嘘なんてなかった
響けばすぐに折れそうな背骨でここに立っている
ほんの、覚悟と角度でドアノブを回せば
君は、間違える指先の
先で

好きだと、ただいまという名前の人のうつむいている背中
不確かなもの、どうにでも



テリトリー、もうどこにも
とりあえず走って、また明日、まで
ただいま、そう呼んだ人
僕らは逢いたくて



そのことばが、途切れていく
昨夜止まってしまった時計の下
降り積もっていく一秒毎
そこからあの人が生えていく
追い抜く人も、立ち止まる人も
結局その顔を、覚えていかない
僕らは今日に駆け込んで、吊革に繋がって
陳列されると
かちり
目の奥で何かが、切れる音がする

ただいま、そう
もう一度逢いたい


運ばれていく


自由詩 ただいま、という名前の人に Copyright 霜天 2006-01-24 15:27:52
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