アンテ


とにかく王様は目を輝かせて
いくさだの狩りだのと飛び出したきり帰ってこないし
王子たちは毎日飽きもせずに
女だの武器だのと目につくものに見境なく手を出す有様で
臣下たちは強欲を隠そうともせずに
富だの権力だのにかまけて国政など二の次だし
人々は自分の怠惰を棚に上げて
やれ干ばつだのやれ害虫だのと苦難を誰かのせいにしてばかりなので
とうとうお后様は堪忍袋の緒が切れて
王国など初めからなかったことにした
するとたちまち市場や盛り場が崩れ落ち
城じゅうが腐りだして
田畑も橋も塔も見る影もなく風化してしまった
人々は足から根が生えだして地に縛り付けられ
頭や腕がするすると伸びて枝葉になり
全員が樹に変わり果ててしまった
国じゅうが人々の樹で覆いつくされると
わずかな森に潜んでいた動物たちは
気持ちよさそうに走り回ったり
足を止めて人々の樹の実を食べた
お后様は城跡をあとにして
国のはずれにある立派な大樹にたどり着くと
ゆっくりと時間をかけて樹のてっぺんまで登り
身体を小さくまるめて眠りについた
隣国は気味悪がって領土に近寄ろうとしなかったので
人々の樹は花をつけ実をなし新たな樹を生み
国全体が森に変わった
動物たちは毎日気ままに暮らすうち
世代をへて体格が次第に変化するものが現れ
二本足で歩くようになって
容姿もどことなく人に近づいていった
お后様は大樹の幹に呑み込まれて区別がつかなくなり
大樹はますます成長して
国のはずれから世界を静かに見下ろしていた
人のようなものたちは
寄り集まって集落をなし
木々を切り倒して住みかや道具を作るようになり
時には諍いを起こして互いを傷つけあったが
国のはずれにある立派な大樹にだけは
決して近づこうとはしなかった
日が昇り日が沈み雨が降り風が吹き
季節がくり返され
森は次第にその領域を減らしながら
わずかに残った動物たちを守りつづけた





自由詩Copyright アンテ 2006-01-22 22:54:33
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