弱虫魔法使い
和泉 誠

第一話 マコと憂鬱

冷たい風が通り過ぎる。生い茂った背の高い雑草たちがサァーと一斉に乾いた音を立てる。一本頃合のよさそうな古くて大きな木を見つけて、マコはだらしなくそれによっかかっていた。
「あー、また騙されたよ」
マコは誰に聞かせるわけでもなくつぶやいた。彼は周りに誰もいないとぶつぶつ一人言を言う癖があった。
「胸をときめかすものなんて、みんな幻だって知ってたのに」
どうやら彼はとても傷ついているらしかった。彼がだらしない格好をしてなげやりな言い方をするのは大抵そんな時だから。
「あー、風になりたい。僕も地球に流されて気持ちよくなりたいよ」
風はそんな彼の頼み事なんかに耳を貸す暇もない。与えられた進路に向かって真っ直ぐに突き動かされていた。
「はあ、魔法が使えたらなぁ。そしたらこんな気持ち、二度と味わわなくていいのに」
彼は一冊の分厚い本をマントの下から取り出した。ペラペラとページをめくって、それから一言だけ、
「ちぇっ」
とだけもらしてまた本を閉じた。
開かれたページには写真がはさまっていた。とても美しい人ではあったが恋人と言うにはあまりに年が離れていた。髪は亜麻色でウェーブがかっていて、白い羽のついた大きな帽子をかぶっていた。その笑顔はまぶしく、ほころびた目元には優しさが満ちていた。まるで貴族を思わせるような気品があり、そしてまたどこかはかなげであった。



未詩・独白 弱虫魔法使い Copyright 和泉 誠 2006-01-19 17:51:01
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