パリへの逃げ道
殿岡秀秋

東京の郊外住宅地のとある公園のブランコに座っていると、ひとりの娘が走ってくる。顔つきが白く凍っている。「どうしたの」と声をかける。「追われているの」といって振り向いて娘は一瞬のうちに助けを求める期待の表情と、ここで時間をつぶすわけにはいかないという決意の目を見せて、駆けていった。娘が逃げてきた方向を見ると、黒い服の男たちが迫ってくる。ぼくはフランコから降りて娘の後を追う。娘は公園から道路ひとつまたいだ家に入ろうとする。たぶん自分の家なのだろう。「家にはいってはだめだ」とぼくは叫ぶ。娘は背後の声に立ち止まる。「逃げ場がなくなるぞ」ぼくは娘に追いついて、その手をとって走りだす。路地の曲がり角に地下駐車場におりる階段がある。そこをくだっていくと、踊り場に鉄製の錆びた扉がある。それを押し開けて電気をつけて階段を駆けておりる。二人の息遣いがかび臭いコンクリートの壁に反響する。また、扉があって開けてはいる。そこは広い通路になっていて、壁がレンガ造りでたわんでいる。地震がきたら崩れそうだ。まるで大腸の中を歩いているような感覚にとらわれる。突然、明るくなってメトロの駅の改札口に出る。フランス語の表示。ここはパリのメトロだ。メトロに乗れば、もう追ってはこないと娘に告げる。娘はルーブ美術館に行きたいという。ぼくはメトロの切符を二枚買った。








自由詩 パリへの逃げ道 Copyright 殿岡秀秋 2006-01-14 03:41:21
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