非・定型
岡村明子

家族の写真がない

両親が離婚すると決まったとき
それでも家だけは誰かが守るだろうと信じ
写真はすべて置いてきた

そしてすべては処分されたと聞いた

いつかここに帰るかもしれないという希望は
文字通り灰となって消えた
数年前のことだ

自分が気に入って持っていた小さいころの写真が
三葉だけ残っている
私と父
私と弟
私と母
の写真だ
四人で写っているものはひとつもない

家族のことを訊く人は
家族が少なくとも「ある」人だ
私の心の中で家族という鏡は粉々に砕けているので
家族の像を結ぶことができない

父の本棚にアルバムを見つけたので
悪いと思いながら中を覗いた
家族の写真があるかもしれないと期待したのだが
出てきたのは
いびつな形の写真ばかり
母だけが
切り取られていた

家族の非定型
家族の否定形

私も子供ではないから
他人の家族がそれほど幸せでないことも知っている
家族の数だけそこには問題があるであろうことも
ファミリーレストランという文字を見るだけで
吐き気を催したのも過去のことだ
だけど
血のつながり
なんて
目に見えないようなことを言われても困る

いびつな写真は
逆にそこにいる母をくっきりと想像させて
グロテスクに存在感を放っていた
私は
その二人の
子供

定型を維持するために汲々とするくらいなら
ひとりで生きてやると外に出てはみたものの
世間の風は冷たくて
お母さん
あなたがいたら私の話を聞いてくれただろうか

お母さん
家族のことを考えるときどうしてもあなたを思い浮かべてしまうのは
私がいつか家族の中で「お母さん」になるかもしれないから

家族が一番幸せだったころ
うちにやってきた犬も今はいない
四人家族、庭付き一戸建て、犬
そんな幸せの定型が
いつかあったということが
余計に悲しい


自由詩 非・定型 Copyright 岡村明子 2004-01-24 19:07:36
notebook Home