らくだと全ての夢の果て
蒸発王
天の川輝く
零下10度の
砂漠の夜
いつものキャラバンで
友達のラクダと一緒に寝る
名前は知らない
聞き取れなかったから
それで良いと思った
夜には一枚の毛布と
ラクダが
私を後ろ足と胴の間に抱き込んで
くっついて寝る
まどろみつつ
私はラクダに話しかける
このラクダはなかなか詩人なのだ
何か話してくれよ
(では水の話をしよう)
水?めったに飲まないじゃないか
(そう水はこの地には無い)
(この地にある水は全て天に召されたのだ)
雲のことかい?
(いいや)
(今も見えるだろう天にかかるあの大きな光の川を)
(あれは天上の水が凍ったものだ)
(水晶のような氷が生きとし生ける者の夢の光を反射して)
(光っている)
(そう思うと 乾いたこの地を誇りに思える)
(おかげで私達はあんなに美しい夢の光が見れる)
(ありがたいことだ)
(ありがたいことだ)
ラクダの話を聞きながら
私は眠りの世界への船を渡っていく
こんなラクダとの夜を
何度過ごしただろう
最初臭いと感じた獣の匂い
今はとても安心する
彼に会いたくて
キャラバンはもう趣味になった
砂嵐のあった
夜半
ゆっくりと
彼は涙を流すと
心臓の音が細くなり始めた
何時からか
分かっていたので
頑張って
落ちついて
言葉を選んだ
ついに行くんだね
(寒さは大丈夫だろう 私の死体を抱いていれば今夜はしのげる)
そんなことはどうでも良いよ
(泣いているのか?)
そんなことない
この日のために練習したんだ
泣いたりはしない
きっと気のせいだ
(・・・・前に水の話をしただろう)
(私も死んだら水になる)
(この血も涙も全て天に上がる)
(彼方で凍りつく氷河になって)
(君の夢の光を受けよう)
(君の全ての夢の光を受けよう)
(光はきっと君に届く)
(だから)
(泣かないで)
(顔を上げてご覧なさい)
(今 全ての夢が蘇ろうとしている)
涙が頬を伝って
苦い塩味が
舌に触れた
もう行ってしまった
友を抱きながら
夜空を見ると
夢の光が目を貫く
ああ
今
全ての夢が
蘇ろうとしている