ぼくが包茎だったころ
ZUZU

ぼくが包茎だったころ
アフリカはとおく
象の足は八本あった

あのひとのほほは白く
うつむくまつげは長かった
どんな人にも天使のように微笑むので
誰もが自分はあのひとに愛されていると勘違いした
ぼくも例外ではなかった

十二本足のしまうまにまたがり
ぼくとあのひとは
地平線へむけて駈けた
あのひとのももいろの乳首をやさしくつまみ
いろいろな制服を買ってきては着せ替え
うなじをくちびるでなぞり
あたたかい六月の朝のなめくじのように抱き合う
毛穴にわけいり
霧ふく汗やもれる声にとけあう

包茎でさえなくなれば
ぼくはあのひとに愛を告げることが出来る
こんなゆめにあまく苦しめられることもない

手術は成功した
たったの十五分のことだった
世界は塗り替えられた
象の鼻は長く
しまうまのもようはしましまで
あのひとはお嫁にいくという
相手は清潔で美男子なサラリーマン
新婚旅行はアフリカではなくオーストラリアらしい

ぼくはあのひとに告げることが
あったような気があんなにしていたのに
なに?って
くびをかしげるあのひとのまえに立つと
何もかもが恥ずかしく
なんでもない、おめでとう、って
ただ股間をそっとかくすしかないのだった

ぼくが包茎だったころ
包茎は雑誌広告のように
簡単な手術で治るものだと思っていた
だけどそれは間違いだった
包茎はけっして手術では治らなかった

いまでもぼくは
とおいアフリカで
八本足の象の群れが行進していく音をききながら
あけてもくれても
あのひととセックスしまくる夢を見る









自由詩 ぼくが包茎だったころ Copyright ZUZU 2006-01-05 20:13:31
notebook Home