駅・東京
たりぽん(大理 奔)


九番線、午前六時四十二分。急行「銀河」はEFに牽かれ


 終着駅に東京駅を選ぶのは、旅として最悪の結末だ。それは旅人がこのホームに立ったとたんに旅が死んでいくから。地下深くにまで用意された28本もの番線はまるでカタコンベだ。死蝋と化した者達が迫害を逃れ、定時の礼拝を繰り返している。すべてのレールはどこも左右で対になっているし、その気になれば自由に走れるのであろうけれども列車は膨大なダイヤフラムにのっとってそれぞれにふさわしいと決めつけられた行き先と速度で、それぞれにふさわしいと決めつけられた停車駅を経由していく。そして、東京駅を通る人生には通過するという自由は与えられない。それを列車の資質のせいだと誰がいえるだろうか。この駅には誰もが立ち止まらなければならないのだ。旅人は、自由意志でこの終着駅を選んだのだが、それは理の中に埋没していく。

巨きなダイヤフラムの上で、それぞれの路線を演じる人たちも、その全体からはずれ、暴走するときそれは事故、あるいは犯罪として調査委員会は判断し、対策が打たれる。かくして列車たちは決してこの駅を通過することなく、立ち止まることが平等であると思いこんでいる、と誓わされるのだ。

本当だろうか。本当に旅は死ぬのだろうか。旅人はそれを確かめるためにまたこの駅に降り立つ。


九番線、午前六時四十二分。急行「銀河」はEFに牽かれ



自由詩 駅・東京 Copyright たりぽん(大理 奔) 2006-01-04 17:59:55
notebook Home 戻る
この文書は以下の文書グループに登録されています。