石ころ
服部 剛

あても無く彷徨さまよ
芝生に伸びる私の黒影
丘の上に独り立つ

ただ
北風は枯草かれくさを揺らし
雲ひとつない空は澄みわたり
日の光の道を映す海は
いで

水平線の彼方かなたにはうっすらと
島が見える

果たせなかったいくつもの約束を
あそこに置いてきた気がする

眼下に広がる霊園
墓石に柄杓ひしゃくで水をかける婦人
夫は石段にたむろす子猫にえさいている

海沿いを走る線路の踏切が鳴り
江ノ電がゆっくり駅に近づいて来る

丘の下にある修道院の部屋で
九十過ぎの尼さんは
ベッドに横たわっているという

病に倒れる前 
受話器越しに聞いた 
尼さんの嗄れ声 


( あなたのことをいつも祈っています )


白い壁の窓の中に思いを馳せて
芝生に伸びる私の影はうつむく
足元に置いたかばんから取り出した
ノートとペンを手にしたまま

見下ろすと
黒影の胸に隠れた
ひとつの
石ころ 





自由詩 石ころ Copyright 服部 剛 2005-12-31 16:10:31
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