石ころ
服部 剛
あても無く彷徨う
芝生に伸びる私の黒影
丘の上に独り立つ
只
北風は枯草を揺らし
雲ひとつない空は澄みわたり
日の光の道を映す海は
凪いで
水平線の彼方にはうっすらと
島が見える
果たせなかったいくつもの約束を
あそこに置いてきた気がする
眼下に広がる霊園
墓石に柄杓で水をかける婦人
夫は石段に屯す子猫に餌を蒔いている
海沿いを走る線路の踏切が鳴り
江ノ電がゆっくり駅に近づいて来る
丘の下にある修道院の部屋で
九十過ぎの尼さんは
ベッドに横たわっているという
病に倒れる前
受話器越しに聞いた
尼さんの嗄れ声
( あなたのことをいつも祈っています )
白い壁の窓の中に思いを馳せて
芝生に伸びる私の影はうつむく
足元に置いた鞄から取り出した
ノートとペンを手にしたまま
見下ろすと
黒影の胸に隠れた
ひとつの
石ころ