ねこねこのほわいとくりすます
汐見ハル

ねこねこは
きらきらのほしがまいおりたまちのなかで
うきあしだってくるざっとうをみおろすのが
すき
ほわいとくりすます
という ひびきが
すき
それは
あのひとの
てのひらに
にている 
やわらかく
あたたかく
よいにおいのする
ひびきだ、と
ねこねこは
のいずまじりのくりすますそんぐに
うっとりとめをほそめ
のどを ならす

あのひとになぜられているときのきもち

おもたいくものしたで
もうだいじょうぶ と
しんぼうづよく なんども
みるくをくれたてのひら
ひるさがり
ゆるやかにはがねいろのそらが
ひらいてゆく
だいじょうぶ

ねこねこは
まなつにうまれたひよわなこねこで
すてられたこねこで
しにかけたところを
ひろわれたこねこで
あのひとの こねこに なって
あのひとの てのひらが
すき な
こねこで

なのに
くりすますにはゆびわを、と
あのひとはおんなのひとの
しろいゆびにくちづけてわらった

ねこねこのことを
わたしたちのこねこちゃん、と 
よぶ おんなのひと
ねこねこのなかで わたしたち とは
あのひと と ねこねこのことだったので
ねこねこはおんなのひとにさわられてやらない
ねこねこはこれみよがしにあのひとになぜられて
のどをならしてみせつける
なのに いまでは
ねこねこにとっても
おんなのひとにとっても
ねこねことおんなのひとのことが
わたしたち
せかいが あのひとから
くりすますを うばったときから

いま ねこねこをなぜるてのひらは
かつて あのひとのほほをつつんで
あのひとのせなかのあせをたどった
ねこねこはそのてのひらをすきではない
あのひとよりも すこしだけつめたいてのひら
あまいかおり
ねこねこには
あまいかおりがない
ねこねこには
しろいゆびもない
ねこねこには
なみだというものがない
ねこねこには
あのひとしかいらない
ねこねこには
あのひとはもう 
いない

だけど ねこねこは
おんなのひとのしろいへやに かえります
あのひとのいないせかいで
わかりあうわけじゃないけど わたしたち
だいじょうぶ、と
あのひとが くりかえしてくれたことを
わすれないために ひつようなこと

ねこねこは
きらきらのほしがまいおりたまちのなかで
のいずまじりのくりすますそんぐに
うっとりとめをほそめ
のどを ならす
そうして
しろいへやに かえります
わたしたち、の
しろいへやに

あのひとのてのひら
ほわいとくりすます
にゃあ と なく
ねこねこ
あまいかおりに
ほほを すりつけて
まどろむ
せかい
あのひとにであった
あと、の


自由詩 ねこねこのほわいとくりすます Copyright 汐見ハル 2005-12-23 22:45:47
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