もいっぺん、童謡からやりなおせたら
角田寿星


詩 って なんだろうね?
君がぼくに訊ねる
ぼくは 脱いだばかりの
クツ下のにおいを無心に嗅いでいて
君の問いに答えられない
君とぼくの目と目がゆっくり重なる

例えば 早朝の草野球
主将どうしが試合前に握手しながら
詩 って なんだろうね?
という会話はされないだろうし
あるいは 帰りがけのコンビニ
店員のおねえちゃんが
付けまつ毛をパチクリさせて釣りを渡すとき
詩 って なんだろうね?
と話しかけはしない

思えば 結婚して10年になるけど
君とぼくが
詩について 話をしたことは一度もないんだ

詩 って なんだろうね?
君はぼくに訊ねてほしい
ぼくはきっと
今度は足の裏のにおいを嗅ぐのに夢中で
このにおいが世界平和に活用できないか
真剣に考えているだろう

ぼくら もいっぺん
童謡からやりなおせたらいいね
ぼくら たんたんたぬき と大声で合唱して
幼稚園のクララ先生に 火が出るほど怒られた時みたいに
そして君とぼくは 詩の話をしよう
ぼくは ぞうさん とか
みかんの咲く丘 とか
それいけアンパンマン に
比肩しうる詩をいつか書くんだ
幼稚園の制服で 手をつないで
芝生にすわって空を見上げたりなんかしてね

大人になって 故郷をはなれて
ぼくは ふるさと の2番
   いかにいます ちちはは
   つつがなきや ともがき  のとこで
いつも涙で 声がつまって
最後まで うたえなくなる

ねえ
詩 って なんだろうね?
ぼくは君に
ひとりごとのようにつぶやいてみる
君は子どもたちの世話とか
夕食の支度とかに忙しくて
ぼくの問いに
答えられない


散文(批評随筆小説等) もいっぺん、童謡からやりなおせたら Copyright 角田寿星 2005-12-20 22:08:31
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