恋文
蒸発王

最期の最期で
酷いことをする私を
憎んで下さい



私は明朝に死にます

信じられないことかもしれませんが

ちょうど三年前

死神が枕元でそう言ったのです



死神は美しい人でした

自分の余命が三年ということよりも

その美しさに呆然としました

死神はうっそりと

貴方がよくするように笑って

この顔はお前の“運命の人”の顔だ

と言ったのです



死神は三年後迎えに来る

という言葉を残して

気がついたら朝になっていました

夢とは思えませんでした

そして一年前

貴方と出会い

あの夢が現実なのだと知りました



そう

貴方の顔が死神とうりふたつだったのです



最初は貴方が嫌いでした

あの夢を現実だと認めるようで

貴方を避け

貴方を殺そうとも思いました


それなのに

どうしようもなく貴方に惹かれていったのです



最期の一年は矢の様に流れました

貴方と見た川沿いの桜

夏に2人だけでした小さな花火

夜の海で探した流星群

病室に持ってきた紅葉



貴方の気持ちには気付いていました

だからこそ

私の気持ちは絶対に言わないことに決めていました

貴方を傷つけるからです



このまま死んでいこうと誓いました




けれど

今晩

死神が私の前に現れ

貴方の顔を目の前にすると



思わず遺言が書きたいと言ってしまいました





どうしても筆をとらずにはいられませんでした






貴方が




好きです






最期の最期で貴方に酷いことをする私を

どうか憎んで下さい

酷い奴がいたもんだと鼻で笑ってください

忘れてくださっても構いません





だから

泣かないで下さい


そして

幸せになって下さい



貴方が好きです



        

ありがとうございました





          


             追伸:この手紙は遺言ではなく最初で最期の恋文です
                破いても燃やしても構いません










自由詩 恋文 Copyright 蒸発王 2005-12-17 20:55:17
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