ある貴婦人の肖像
和泉 誠

あい様の教育係として
私はこのお屋敷に雇われた

あい様はまだ遊びたい盛りなのに
朝から晩まで お勉強にお稽古

この子は将来立派なレディになるんだ
甘やかしたりしたら承知せんぞ

ご主人様はとても偉大な方
けれど実の娘をまるでモノでも見るかのように

あい様はとても不憫な方
私が優しくしてあげなきゃ きっと家出をしてしまう

私はあい様の味方
ご主人様は怖いけれど

眼鏡を拭いているすきに
私はあい様にお菓子をあげる

お屋敷を留守にしたすきに
私はあい様をお庭に連れて行く

ついにそれが見つかって
私はご主人様に呼び出された

「もしも今後態度を改めんようなら
 この屋敷から出ていってもらわなければな」

どうして?悲しい瞳で私を見つめる
分かってください 私にはこうするしか

厳しいピアノレッスンの途中
ついにあい様は泣き出した

「裏切り者!あんたなんか嫌い!大嫌い!」
分かってください 私にはこうするしか


自由詩 ある貴婦人の肖像 Copyright 和泉 誠 2005-12-14 16:06:34
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