一歩
アンテ


部屋じゅうを
きれいさっぱり片づけて
いらない物をぜんぶ処分した
残ったものは
リュックに半分もなかった
大切なことが
いくつもあったはずなのに
どうしても思い出せなくて
リュックを手に取ると
ずっしりと重かった
ひ、ろ、こ、ちゃーん
もういくよーっ
外から呼ぶ声がした
本当に一人で
行かなくちゃいけないの
半べその声が
リュックを背負いながら
何度もふり返った
お話の自分なんてもうたくさんだって
自分で決めたんでしょう
代わりにドアを開けてあげると
眩しそうに手をかざした
さようなら
ひろこちゃん
背を押すと
やっと
一歩を踏み出して
笑顔が遠ざかって
ありがとう
さようなら
ドアが閉まった
それきり静かになった
そうだ
リュックに傘を入れるの忘れたっけ
笑いがこみあげて
床に寝転がると
やわらかい気持ちが広がった
なんであんなに
むきになったんだろう
わたし
目を閉じて
大きく息をすった
何度も息をすった




自由詩 一歩 Copyright アンテ 2005-12-05 02:25:08
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