レタ
日和

朝起きたら
郵便受けが手紙をくわえていた

切手はないのに消印はある
宛名はあるのに差出人がない
ちぐはぐな手紙

開けてみると光が入っていた
光はみるみるうちに封筒から出てきて
それもたっぷりと零れ落ちてきて
まだパジャマ姿の私にまとわりついてきた
身体をすり寄せる野良猫のようだと密かに思った
この眩しい奴に名前を付けてあげなければ
訳も分からずそう思った

手紙からとってレタと名付けた
レタは厄介な同居人になった

レタは原型をとどめることが出来ないらしかった
だからいつも私の後を 滑るようにしてついてきた
レタはコップ とりわけ透明のコップの中に入っているのが好きらしかった
きっと自分の身体が零れないで済むからだろう
いつもコップのなかでゆらゆらしている レタ

レタが居ると一日中が昼だった
だから頼んだ
「夜を連れてきておくれ」
するとレタはおとなしく湯飲みに入る
そうして 気がつけば湯飲みの中で眠っている
だから私はいつもレタにランプの笠を貸してやる
「さあ 優しいランプにおなり」

レタは時々寂しげに啼くことがある
 きらり
 きらきら
 り
ミャーオとは啼かないんだなと しみじみと思った

レタは小さい女の子が苦手のようだった
小さい女の子はいつもレタを持って帰ろうとしていた
小さい女の子にレタは掴めないし
レタは湯飲みから決して出てこない
そのうち小さい女の子はしくしく泣き出して
「れた、れた」と云って帰る
レタはようやっと湯飲みから出てきて
すすすと私の所へやってくる
「やっと帰ったわ」
そんな表情ひかりかたでやってくる

レタは ホットケーキを上手に焼く
レタは 洗濯物を上手に乾かす
レタは たまに湯飲みで寝返りを打って零れてくる
レタは 炬燵こたつの中を高温にして私を驚かす
レタは 拗ねたら1週間も夜を呼んでくれなかった
レタは 冬が嫌いらしかった
レタは せっかく雪が降っても溶かして回るから
レタは
レタは
レタは
レタは 厄介な同居人だった
 
 
 

レタがうちにやってきて
昼が403回と夜が327回やってきたころ
レタがふっと消えてしまった
私は驚いて家中を探したけれど
すべてのコップのなか
すべての湯飲みのなか
炬燵こたつのなか
家中を探し回ったけれど見つからなかった
コップが気に入らなかったのかしら
湯飲みが狭かったのかしら
レタは消えていくときまで厄介だった
せめて
置き手紙くらいは置いてゆけ
こっそりと怒った
そもそもレタが文字なんて知るわけもないのだけれど
レタは私の中に夜を置いて帰った
私は全部をレタのせいにしてひっそりと泣いてみた
 
 
 
それからもう何回も炬燵こたつの時期が過ぎたけれど
レタは帰ってきやしなかったので
私は毎年ひっそりと祈って手紙を書く
真っ白な封筒に
切手は貼らず
差出人も書かず
「れたへ」
下手な字で書いて
投函する
レタ
お前のせいで毎年毎年コップが増えてゆくのよ
だから
早く帰ってきなさいよ


吐く息が白い
また
LETTERレタの季節がやってくる


自由詩 レタ Copyright 日和 2005-11-29 21:41:21縦
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