アルマジロの月
ブルース瀬戸内

アルマジロは存外、臆病です。

こっちが遠くにいると

やけにたくましいふりをして

立ち上がったりするくせに

こっちが近づくと

慌てて丸まって

固い背中ばかり目立ちます。


アルマジロは存外、臆病です。

名前の語源は「武装したもの」だそうですが

専守防衛です、きっと。

危険が去ったことをどこで感知するのでしょう。


アルマジロは18時間も寝ます。

1日は24時間と聞いていますが

どうしたことでしょう。

6時間しか起きません。

人間でいえば

昼ごはんを食べて

晩ごはんを食べる前に就寝の時間です。

ずいぶんと思案に暮れているのか、
そもそも疲れやすいのかもしれません。


私はこんなものを最近飼うようになりましたが

なかなか互いの時間が合いません。

スレ違いの生活です。

コミュニケーション不足は

破局を招きやすいのです。



アルマジロは存外、臆病です。

好物のリンゴを持っていっても

今日も「武装したもの」は丸まっています。

リンゴも私も危害は加えないはずです。

でも持っていくと

少し目を開けます。

まんまる過ぎる目を

少し開けます。

さっぱり武装されてない目です。


アルマジロは、よく月を見ています。

丸いものが好きなのか

前世がウサギなのか

よく分かりませんが

ひょっとしたら

月になりたいのかもしれません。

あのゴツゴツした背中からして。

しばらく月を見ると

そばに置いてあるリンゴを食べ始めます。


私が夜更かしすると

よくそんなことをしているのが分かります。


次の日、私が起きると

存外、臆病なアルマジロは

すっかり月になっています。

リンゴを食べている途中で

眠ってしまったようです。


自由詩 アルマジロの月 Copyright ブルース瀬戸内 2005-11-28 23:58:42
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