王国
アンテ


言葉の王国には
言葉の王様が住んでいて
ある時は
言葉の災いや悲しみに弄ばれ
時には言葉の民や王妃が
言葉の命を落とし
またある時は
言葉の試練が押しよせ
みんなで言葉の手を取りあって
言葉の苦難を乗りこえ
言葉の笑みで満たされた
言葉の日が暮れて
言葉の街が寝静まっても
言葉の王様ひとりが眠れずに
じっと言葉の静寂に耳をすませ
ようやく言葉の朝がくると
すべてがもとにもどり
言葉の一日がまたはじまった
言葉の過去は消えることなく
言葉の心に降り積もり
言葉の王様のなかで大きく育っていった
重みに耐えきれなくなって
ついにある日
言葉の王様は一人きりで言葉の旅に出た
言葉の国境をめざして進んでいくと
言葉の坂道はだんだん険しくなり
ついには言葉の崖で行きづまった
言葉の王国を振り返ると
さまざまな言葉が
所せましと広がっていた
言葉の崖から言葉の身体を乗り出してみると
言葉ではない本当の暗闇が広がっていた
持ってきた言葉のロープをのばして
言葉の斜面をつたって降りていくと
やがてなにも見えなくなって
言葉の手足の感覚もなくなった
言葉のロープを放して
暗闇に浮かんでいると
言葉の身体がすこしずつほどけて
無数の言葉があたりにただよいはじめた
言葉の心の塊だけが
壊れることなく最後まで残り
光を放ちながら上昇して
暗闇を照らし出した
言葉たちはしだいに寄り集まって
大地や空や川や
城や街や田畑を造りはじめ
足りない部分は増殖して補いながら
言葉の王国を作り上げ
言葉の城のなかで
言葉の王様が目を覚ました
言葉の窓から見下ろすと
言葉の民が集っていて
いつのまにか言葉の后が寄りそっていた
言葉の空のかなたから
やわらかい光が降りそそいでいた
言葉の王様はゆっくりと右手をあげた



自由詩 王国 Copyright アンテ 2004-01-16 01:04:14
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