ノート(逢瀬)
木立 悟




ゆうるりと朝が来る
顔の群れは消えてゆく
ゆうるりがゆうるりと
いくつかのゆうるりを摘み取って吸い
ゆうるりと朝に満ちてゆく


波の光を背にして座り
髪は音にひたされてゆく
寝床に生えたむらさきの花
まぶたをなぞる花粉の指に
あたたかく熱く閉じてゆく目
ふたつの色の闇のなかで
ふたつの色の涙を流す


日々剥がれてゆくものが
枝や葉を傷つけ
文字を書き 裂き
ちぎれ ゆき交い
崖につもり
あるものは土に
あるものは花に
枯れ くずれ 波に落ち
砕け 打ち寄せ くりかえす


涙に流せぬものが岩になり
波の飛沫をあびている
熱いしるしは今も熱く
海の風にも火照るばかり
触れてほしいと火照るばかり


朝の薄闇
花の色に染まり
花の名を忘れ
砂道をゆき
一夜の水の夢を見る
岩に触れ 花に触れ
花粉の指の夢を見る









自由詩 ノート(逢瀬) Copyright 木立 悟 2005-11-27 16:58:53
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