モノローグ
The Boys On The Rock

懐かしい天国への途上で
思い出されるのはあなたのこと
いや むしろ気がかりなこと

あなたによって
傷ついた額から血が流れるのは
これで二度目だ

茨の冠で傷ついた額は
最初に頭を打ち砕かれた時よりも
流した血は少ないはずだ

わたしに欠けたものを所有し
地上の闇で生きることになった兄である あなたの
打ち震える姿が目に浮かぶ

わたしが天に召された日から
あなたを良く言うものは皆無となるだろう
いまでも 激情家のペテロの罵詈雑言が
耳に聞こえてくるようだ

あの日 スープに浸したパンを
乾いた兄の唇に押し込んだときの
あきらめきった表情が目に浮かぶ

エリ エリ レマ サパクタニ

祈りはむしろあなたに必要だったのだ
磔刑台で息絶える間際に発したわたしの言葉は
同時にあなたの苦悶の叫びだったのだ

ほふられる子羊のわたし
もう一頭の生贄である兄
ただ あなたはアザゼルに捧げられた砂漠の山羊
忌まわしいモロクの竈に
望んで入っていった哀れなユダよ!

あなたは ゲッセマネの地からカヤパの元へ走ってくれた
そのおかげで わたしは人の子となり
あなたは永劫の裏切り者となってしまったのだ
あなたの痛み 後悔 慙愧で身を焦がす苦しみを理解できるのは
天国でも地上でもわたし以外おらぬ!

底知れぬ闇を腹に収めてくれた兄のおかげで
原罪を解消された人間たちだが 
わたしの血まみれの額である 大地の上で
いまだ おろかな過ちを繰り返している

じきに わたしという原罪の浄化機構は破綻をきたし
あなたとわたしに贖われた罪以上の闇が地上を覆うはずだ
わたしは何度もやり切れぬ祝福を行うだろうが
罪の絶望的な増加に歯止めが効かぬことぐらいはわかっている
あるいは それも折込済みである父の計画

ただ わたしの気がかりなのはあなたのこと
地に据えつけられたあなたの周囲には
ソドムとゲヘナとアルマゲドンの住人が犇めき
もう一人の神の子であるあなたの存在に気づこうともせず
みな痰や唾を吐きかけ虚飾の瞳で見下しているのだ

ただ あなた自身も気がついていたのだろうか
わたしがどんなに兄さんを愛していたことを

あなたの震える手がわたしの額を打ち砕いたときから
砕かれた頭から流れる血を大地が貪欲に吸ったときから
あなたが呪われたノドの地へ追放されたときから
あなたがわたしを銀四十枚で売り泣いたときから
あなたを一刻も早く救いたいという気持ちを
ずっと抑えねばならなかったわたしの気持ちを・・・

終末の刻を心待ちにしながらわたしは父の計画を遂行する
なぜなら この計画を完遂させる以外
ノドの地上で震えている兄さんを抱きしめることは
できないのだから


自由詩 モノローグ Copyright The Boys On The Rock 2005-11-27 12:34:33
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