海になる
岡部淳太郎

私は海になる
ただひとり あなたのために私は
自分を分解して個体の部分をすべてぬき取り
液体だけで構成された海になる
父になることしか出来ない性の宿命
それでもかまわず
私は母のような海になる
私は精液のように不透明で 濁っているかもしれないが
汚れてはいない
私は誰にも汚されない海
自らの液体の性質だけの閉ざされた港
私は出来る
あなたを叩き割り 打ちすえて 翻弄して 破壊すること
あなたを静かにたゆたわせ
あなたを優しく眠らせること
あなたは何も証明しなくても良い
木の葉のように揺れていればそれで良い
私の中には大勢の魚が住んでいて
その生命という名の力は私自身でさえも脅えさせる
私のずっと底には表面からはうかがい知ることの出来ない
 山や谷
私自身でさえも知らない魂の状態が隠されている
私は時に船を壊す
私は時に船を穏やかに通過させる
私の上を行く者は
常に私の状態に気を配っていなければならない
だがあなたは恐がらなくても良い
私は大きい
私は海
あなたは小さな揺籠で
赤子のようにあなたは私の上を漂っていれば良い
海の色を決めるのはあなた
私はあなたの小さなひと声に敏感に反応する
時に私は灰色の混乱
時に私は白い怒り
だが いまの私は青い
青い海
あなたを求める憂鬱の青
あなたを思う美しい夢精
私は私自身の液体の中で窒息する
海になる
海である

多くの変化を私は見てきた
見知らぬ他人が船を漕ぎ出していた
見知らぬ自然がこの星を造形していた




自由詩 海になる Copyright 岡部淳太郎 2005-11-25 23:02:02
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