被食欲
田島オスカー


その包むような声を聞いて泣いてしまうのは
弱っているからだと気付いて


爪を一枚だけはがして
あなたの前に差し出して
そして 泣けば
その白い指が僕を
殺してくれると思っていて

弱さが見せる幻の
二丁目の角で あなたが
白い指で壁に僕の名を書いて
そうしていつか
塗りつぶしてくれると思っていて

僕のすべてをその白い指が
ほぐしたり叩き割ったり
そういうことを僕は
望んでいて


あなたの弱音のその優しい声が
僕の寂しさを握り潰してくれるのを
誰よりも僕が喜んでいる
そういう愚鈍な僕の指さえ

あなたが食べてしまってくれれば



 


自由詩 被食欲 Copyright 田島オスカー 2005-11-15 01:48:52
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