被食欲
田島オスカー
その包むような声を聞いて泣いてしまうのは
弱っているからだと気付いて
爪を一枚だけはがして
あなたの前に差し出して
そして 泣けば
その白い指が僕を
殺してくれると思っていて
弱さが見せる幻の
二丁目の角で あなたが
白い指で壁に僕の名を書いて
そうしていつか
塗りつぶしてくれると思っていて
僕のすべてをその白い指が
ほぐしたり叩き割ったり
そういうことを僕は
望んでいて
あなたの弱音のその優しい声が
僕の寂しさを握り潰してくれるのを
誰よりも僕が喜んでいる
そういう愚鈍な僕の指さえ
あなたが食べてしまってくれれば