薄暗い(檻)の中で
岡部淳太郎

時計の秒針を追いかけて跳躍する
目の中で止まる動き
さらには滑り落ちて
  沈み
耳の中で方向を見失う
犬のようにではなく
あくまでも人の成れの果てとして
この(檻)の中で暖まる
外は冬であろうか それともまだ
秋の落葉であろうか
落ちてゆく舌の
ゆっくりとした粘着質の手触りであろうか

わからない
わからないことを
よしとして
わからない風景に思索する

わかりきったことであった
最初から
わかりすぎるほどに
わかっていたはずだったのだが

巻き戻して
もう一度同じ場面を見るのは心地よい
痛いけれども心地よい
そして滑り落ちて
  沈み
死は すでに済んだことにして
毒虫のように
あるいは人のように
この(檻)の中で慣れてゆく
閉め切った窓の中
同じ空気だけを呼吸して
天井からぼろぼろと
接着力を失った子音が崩れ落ちてくる

あきらめて使徒となり
あきらめて人となり
この(檻)の中に埋もれてゆく
唇の上に流れる古い音符を飲みこんで
織りこまれた毛のものにむせる
  沈み
ながら 下りてゆく
この(檻)の中心から穴を穿って
この身の人となりを確かめる
ひとりきりで笑え
外では風が
折れ曲がりながら吹いている



(二〇〇五年十月)


自由詩 薄暗い(檻)の中で Copyright 岡部淳太郎 2005-11-06 20:04:43
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