ノストラジア
仲本いすら

懐かしい、と思わず声をあげてしまったのは
きっと何かが体を突き抜けて
螺旋状に空に
消えて行ってしまったから

サビサビの
ボロボロの
どうしようもないくらいに 小汚い
きっと元は黄色だった 茶色のベンチには
どれくらいの 思い出が詰まっているのだろう

そして、それは
どれほどの
キレイな色を
なびかせて 輝いて
いたんだろう


懐かしい、と思わず声に出してしまったから
涙腺は
「もっと、もっと出せ」と
思いのほか、頑張ってくれている
そんなに気張らなくても いいのに

針がぐにゃりと ロシアの方向に曲がってしまって
時間なんて わかりっこない
時計塔も
むくむくと
土煙と黒煙と
螺旋状のあれを出して
「もっと、もっとだ」と
ワルツを奏でている


懐かしい、と思わず声をあげてしまったのは
きっと何かが体を突き抜けて
螺旋状に空に
消えて行ってしまったから

空には鳩がいた。



自由詩 ノストラジア Copyright 仲本いすら 2005-11-05 18:52:36
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