樹海
相馬四弦
今よりも夜が濃くて
あれは雨のにおい
ところどころ綻んだ焼き煉瓦の
ちいさな坑道に二人でうずくまっていた
ゆがんだ廃線のレールに
しじまを乗せた汽車を見送っていた
震える森の 肌寒い寝息
くちばしの鋭い透明が羽ばたいて
そのまま谷の底へと墜落してゆく
彼女が家に帰りたいとせがんだ
どれほど遠くで どこまで赦される?
世界の果てに空なんてあるはずがない
朽ちた潅木から孵化する霧
彼女の体温に手を伸ばした
自由詩
樹海
Copyright
相馬四弦
2005-11-04 21:04:52