白いゆげ
服部 剛

人と争うように働いて
話す気にもなれず
押し黙ったまま一日を終える

仕事帰りの公園のベンチ
あたたかいゆげで慰めてくれる
たこ焼を食べていると
目の前の通りを
なかなか客に呼び止められず
遠くからチャルメラのうたを流しながらやって来た
屋台のラーメン屋が時速20キロで横切ってゆく

がらんどうの丸い心に巻き起こるからかぜ
小石がコロンと転がって
なんだかとてもむなしくなった 

ほんとの心は
争いあいたくも
傷つけあいたくも
憎みあいたくも
ない

わかっていながら
うすっぺらな胸の内に湧いてくる
弱々しい暗雲はほんとの心をおおい隠し
自分ばかりを正しいと肩をいからせながら
うつむく人の前を通り過ぎてしまう

真っ白な空間に身を置けば
きっと僕は汚いヘドロのみになる

独りきりの公園のベンチ
白いゆげが昇る
たこ焼をほおばりながら
ゆっくり想い巡らせば
物忘れの頭の中に
ひとつふたつと浮かんでくる
僕のあやまち
みっつよっつと浮かんでくる
周囲の人々が僕に差しのべるいくつもの手

生きることの速さに追いつこうと
争いそうになったら
思い出そう

透明パックの中に微笑ほほえみを並べて
白いゆげで僕のしょげた涙目をあたためてくれたたこ焼を 

透明パックを空にした
僕のうすっぺらな胸の内に
うつむく誰かをあたためられそうな
白いゆげが湧いてくる 




     * 自家版詩集「明け方のあお」(01年)より  





自由詩 白いゆげ Copyright 服部 剛 2005-11-01 19:11:54
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