昨日の今日
むらさき

あたしは女優だとあんたは言うのだった
あんたが起きる3分前ちょっきりにいつも
あたしは目を覚ますのだった
鏡をみてもその二人の姿は映らずに
目を細めてようやく輪郭が見え隠れするぐらいだった
 
雨の日にはいつも1サイズ小さい指輪が光るのだった 
あんたが摘んだ白い花は気持ちよく枯れていき
ちょうど死ぬ一歩手前で気まぐれに水を
与えられるのだった
あんたとあたしは幸福にもみんなより多くの
果実を拾うことができた その果実は甘酸っぱくて
舌のひらひらをくすぐったのだった
あんたが本を読もうというので手当たり次第に
文字をルーペで凝視するのだった その時いつも 
脅かされた動物たちが部屋の扉のかげからそっと
見守るのだった 

晴れた日にはあんたは釣りに行こうといい
あたしは急いで水槽の寝ていた魚たちをたたき起こし
ゆっくりと風呂場の下水に流すのだった 

あたしが月経でお月様を見るのが怖くなった時も
寂しそうな遠い目でやさしくあたまを撫でてくれた
そしてあたしにきらきらが見える不思議なめがねを
くれるのだった

あんたとあたしは旅にときどきでて知らない人が
楽しそうに笑うのを横目でみることができた
陸の左端のがけっぷちに立って黄色い太陽に
これからの夢をそっと打ち明けたのだった
あんたはあたしに愛してる といった
あたしはあたしも とうなづくだけだった

そんなあんたの右手には鳩が抱かれて
左手にはコンパスがあるのが見えた
コンパスの針はぐるぐると嬉しそうに回り
続けるのをあたしはなるべくみないように
そっぽをむくのだった そしていつか聞いたことのある
趣味の悪い童謡をのどの先で歌うのだった

日曜日の庭先には決まって湿っぽい黒い土がたくさんの
雑草と高価な草をたくさん生やし続けた
あたしはなんだかとてもうれしくなって
植木鉢に詰め込んでいた純粋な花たちを
そっと隣に置いてやるのだった
あんたはそんなあたしの背中をえくぼと一緒に
見つめるのだった

主語と動詞がくんずほぐれつあんたとあたしの
微妙な距離をいったりきたりしていた
それはまるで片田舎の田んぼをのんびりと
散歩するおばかな蚊のようだった

いってらっしゃい
いってきます


自由詩 昨日の今日 Copyright むらさき 2005-10-31 21:27:52
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