けだものと覆われた子
木立 悟




光の傷の足跡でした
小さくまぶしい姿でした
川はあふれ
流れはくちびるのかたちをして
水と土とを引き寄せるのでした


流れの音は
光の花の緑をしていて
過ぎてきたどこか湿った土地のかけらを
わずかに沈めているのでした


野と林の間には
顔をなにかで覆われた子がいて
うすい香水と
汗のにおいをしていました
なにかは布でできていて
暗がりよりも髪よりも濃く
子は夜に持ち上げられるように立っていました


林のほうへ 野のほうへ
流れは分かれてゆくのでした
葉のかたちの光が触れて
かすかに浮かぶ子のふちどりは
何も身につけていないようにも
顔を覆うなにかと
同じものに覆われているようにも見えるのでした


木々の間に見え隠れしながら
けだものは冬の野をめぐり
流れに羽をひたしては
金をさらに金に変え
子の足跡を見つけるのでした


いつのまにか空には月が出ていました
誰の言うことも
ききそうにない月でした
水のなかの曇を散らして
けだものとともに歩む子のうしろ姿を
けだものの背に添えられた
小さな腕を照らしているのでした


光の傷の足跡でした
小さくまぶしい姿でした
源はあふれ
羽は流れを埋めつくし
異なる歩みを引き寄せるのでした









自由詩 けだものと覆われた子 Copyright 木立 悟 2005-10-31 17:25:54
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