遠雷

外灯がちかちかと
貧乏くさくて


でも別に何の支障もない
三歩進んだら忘れた



ふらふらと歩く

あの歌のあのフレーズだけが
今日一日鳴っている
どこまでも
ついてくる

ふらふらと歩く

昨夜は十五夜だったんだ
確かに月は丸かった
僕を照らしてくれたっけ
影を作ってくれたっけ
今夜も外へ出たけれど
くもりらしい

ふらふらと歩く

満ちて欠けて
乱視の目には
みんな美しい
まだそれをキレイに思う
心はあるのか

ふらふらと歩く

でも僕は知っている
今、空にある月は
あの日の月では無いことを
全くの別人だ
よく見れば
どこか違う

ふらふらと

少し歩き疲れたので
見知らぬ店に入ろうとしたけど
あまりの明るさに目をやられ
ドアを閉めた
それで
見知らぬ自動販売機で
一息ついた



僕は歌っていた
あの歌を
はっと気づいて
すぐやめた
うんざりしてツバを吐いた
ただ鳴り止むことはなかった


”あきらめる事は死ぬことだ”
僕が尊敬していた
あの男は言った
僕に酒の飲み方を
教えたあの男が言った
その無精ひげ
その歩き方
皮のコート
兄さんあのときは
あなたのことを愛していました
今はあなたの
した事が理解できません
あなたは
あきらめたのですか

ふらふらとまた歩く

遠雷だ
悲しみすら浮かばない
僕の代わりに泣いてくれ
僕は誰も思えない
なにも悲しくないんだ

ふらふらと

ああ
気持ちのいいミスト
徐々に濡れる快感
コーデュロイのジャケットが
しっとり重くなる質感
ふらつく足取りを
誰も見ていやしない
月だって今日は遠慮してる

ふらふらと

激しい閃光と引き裂く轟音で
さんざ一日繰り返した
あの歌がキレイに消えた







自由詩 遠雷 Copyright  2005-10-31 13:57:51
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