天国への道順
佐々宝砂

天国の緯度経度は
ラファティのじいさんが教えてくれた
地獄がもうないってこと
神も悪魔も死んだってこと
でも天国はこの世にあるのだってこと
ラファティのじいさんが教えてくれた

ラファティのじいさんは電気技師崩れで
アル中で
きたなくて
年くってぼろぼろで
知性のかけらもなくて
詩人の名前も哲学者の名前もしらない
だけどラファティのじいさんだけが
天国の緯度経度を教えてくれた
天国は地上の
いまではない時間の
でも確かにここから行けるところにあるって

天国ちかくの沖の
潮くさい飛沫のあいまからは
魚の顔した人魚が顔を出すのだって
毎朝きちんと百三十の卵を生んで
孵りそうな頃合いにオリーブ油でちょいと炒める
愛の結晶は食べてしまうためにあるから
人魚の顔はお魚だけど
人魚の恋人は腎虚で死んだけど
愛の結晶はとっても美味で
人魚は毎朝よだれを垂らすのだって

天国をそれほどまぢかに見ながら
誰が絶望できるでしょう

小春日和の真夏には
春風そよ吹くインディアン・サマーには
ラファティのじいさんが教えてくれた通りに
自分の左手首を切り落として
左手に道を教えてもらおう

この道のりには死体がいっぱい
腐った死体
乾いた死体
みんなみんな踏み越えて
草むす屍と水漬く屍の向こう側
からりと広い沙漠の海がみえたら
天国はもうすぐ


自由詩 天国への道順 Copyright 佐々宝砂 2004-01-10 15:38:49
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