鏡の中に映る人 〜誕生日に想う〜
服部 剛
「なんでぼくはいきているんだろう・・・?」
十代の頃から十年以上問い続けてきたが
宙に浮かんだ透明な「答」を今もなお掴みあぐね
差し伸ばした腕の先に手を開けば
只 僕というちっぽけな人間さえも生かす
太陽ばかりが遥かに輝き
瞳を閉じると まぶたは暖かい光にそめられる
( それは子供の頃
( 両脇で寝ている両親の間で目が覚めて
( 一人雨戸を開けたすき間から入り込んだ
( 朝日の眩しさに似ている
透明な命の糸は今もこの胸から
遠い青空の彼方へと放たれて
果てなく風に揺られている
ひとみをとじてかたてをあてたみみをすますと
31ねんまえのあのひ
うまれたてのぼくがねかされていた
びょうしつのまどからさすあさひとともに
きこえてきたてんしたちのうたごえが
31さいになったきょうのひも
かがやくたいようのずっとおくからきこえてくる
父も母も自分自身も選ばずに
この世に産声を上げた時
鏡に映る自分という存在の体に入り込んだ ぼくのたましい
無限の宇宙の中に浮かぶ小さい地球という青い惑星の中に
60億以上のありつぶの人々が微笑みあったり憎しみあったり
そのなかで 1/60億 の僕もまた
「はっとりごう」という文字を裏地に縫われた
ぬいぐるみを着て、朝日が昇るごとに目覚めて、
おぼつかぬ足どりで日常の舞台に踏み込んで、
面白おかしく、時に切なく、
この人生という物語を演じている
( きっと誰もが「自分」というぬいぐるみを着て
( 時に脱ごうともがきながら
( 時に優しく撫でてやりながら
( 繰り返される日々の中
独りの部屋で
鏡に映る「自分」という
不思議を
みつめている
*
「 じりりりりりりりん! 」
僕より年上の黒電話が鳴り
親父の車の助手席に乗って
携帯電話を手にした61歳の母ちゃんが
「 今日の夕食は年に1回のステーキよ。
たまには家族そろって
焼きたてのお肉を食べてちょうだい。 」
受話器を置いたら
頭の中に今晩のステーキが浮かび
おなかが ぐぅ と鳴った
冷蔵庫の中では
昨日職場のおばちゃんが
誕生日プレゼントにくれたワインが紙に包まれながら
コルク栓を抜かれる 夕食の時間を待っている