2)詩の朗読・初心者の覚え書きメモ/その2・・・さいとういんこさんに学ぶ(1)
宮前のん

 「まず、細部までイメージを思い浮かべる。それから朗読すると、ものすごく相手に伝わるの。」


 2001年、夏。
 ベンズカフェのオープンマイク終了後に、さいとういんこさんと雑談をしていて、彼女が語った
言葉です。
 私が、いんこさんに「どうすれば、上手に朗読できるんでしょうか」という、とんでもなく稚拙
な、でも私にとっては重要な質問を投げかけた時に、サラッと教えて下さったのが上の言葉です。
この時はオープンマイクでしたから、もちろんワークショップでもなかったわけで、いんこさんに
答える義務などサラサラなかったわけですが、彼女はアッサリとこう言ってのけたのです。
 ところが、言うのは簡単ですが、実際にイメージを細部まで思い浮かべるってのは、結構難しい。
そこで、私は日々イメージ・トレーニングをすることに致しました。具体的には、職場の飲み会で
カラオケに行く時にやりました。歌も朗読も、本質的には同じだと思ったからです。

 よく、「歌は感情を込めて歌ったらいい」などと聞きますが、それはほぼ、間違いのようです。
歌を歌ったことがある人は経験があると思いますが、悲しい歌を泣きながら歌ったり、恋愛の歌を
思い入れタップリに歌ったものを録音して、あとで聞いてみて下さい。たぶん、非常に聞き苦しい
のがわかると思います。感情の垂れ流しは、押し付けがましく、暑苦しい(笑)。丁度、ノロケ話
や愚痴を聞かされているようなもので、聞いてる方が疲れてしまうのです。言葉にあまりにも感情
を込められてしまうと、おそらくは、聞き手の感情の載る余地がなくなるからじゃないかと思います。
 では、どうしたらいいのか。言葉に込めるものを「感情」ではなく「イメージあるいは情景」に
してみて下さい。すると、歌声は淡々としていたとしても、逆にものすごく観客に「感情込もってる
ねえ!」と褒められるようになります。少なくとも私はそうでした。

 具体例をあげましょう。高橋真理子の歌に「5番街のマリーへ」というのがあります。歌詞の内容
は「昔、悲しい思いをさせた女が5番街に住んでいるので見てきてほしい。幸せだろうか」と友人に
頼む男、という設定になっています。私はこの歌が大好きでよく歌うのですが、ものすごく難しい。
「5番街は近い所にあるけれど、とても遠い。」という部分なんか、どうやって歌ったらいいやら。
昔は同僚の前で歌うと、大抵の人がカラオケ目録に見入って自分の次の歌を探していて、全然私の歌
なんか聞いてなかったもんです(笑)。そこで、私は自分が昔経験した場面を、ずっと頭に浮かべた
まま歌うようにしました。といっても、主人公の男性のように女を捨てた経験はないので、昔子供の
頃に住んでいた町のことを思い浮かべるようにしました。私事で恐縮ですが、私の家族はある事情が
あって、昔住んでいた場所に住めなくなったんです。そして、そこにはもう二度と帰れない。そこは
近いけれど、とても遠い所なわけです、歌詞の内容に似ているでしょう? だからその町の、懐かし
いけど自分は行けない風景を、思い浮かべながら歌ったんです。すると、どうでしょう!同僚に「歌
が上手くなったねえ」と言われたり、同じ店のお客さんにアンコールなんて言われたりするようにな
りました。自分でもビックリですよ、これは本当のお話なんです。

 たぶん、慣れれば歌詞や詩の内容を、想像力だけで詳細にイメージングできるようになるんだと思い
ます。だけど、最初不馴れな時には、その歌詞や詩の内容と似た自分の経験を、頭に思い浮かべながら
歌ったり朗読したりしてみて下さい。すると、不思議なことに、聞き手に伝わるものが多くなるような
気がするんです。


●覚え書きメモ/その2:詩の内容を細部までイメージする、それから朗読する。


散文(批評随筆小説等) 2)詩の朗読・初心者の覚え書きメモ/その2・・・さいとういんこさんに学ぶ(1) Copyright 宮前のん 2005-10-29 22:39:12
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