フラグメンツ #31〜40
大覚アキラ

#31

 帰り道は
 いつも
 悪魔祓いのことで
 頭がいっぱいで

 だから
 しょっちゅう
 道に迷ってしまう



#32

 ことばしか信じない
 ことばにならないものなど
 なんの価値もない

 オートバイが走っていく
 という客観的事実よりも
 オートバイが走っていく
 という言い表わされたことばにこそ
 真実が宿っている

 美しい花が咲いている
 という客観的事実よりも
 美しい花が咲いている
 という言い表わされたことばにこそ
 その花の美しさが宿っている



#33

 娘が眠る前に
 本を読み聞かせる
 もうすっかり大きくなったのに
 その習慣だけは
 2歳の頃から変わらず続いている

 ほんの僅かな時間なので
 一日に2ページほどしか進まない
 エンデの『モモ』を読み終えるのに
 半年ぐらいかかった
 今は『はてしない物語』を読んでいて
 ようやく半分ぐらい

 娘が高校生とかになっても
 この習慣は続くのだろうか
 もしそうだとしたら
 そのときは
 プルーストでも読んでやろうか
 と思ったりする



#34

 つつつ

 と
 すべっていく
 あのかんじが
 たまらない

 とまらない
 あのかんじが
 すべっていく
 と

 つつつ



#35

 会社のハセガワさんは
 ある病気に罹って
 それ以来
 通勤の地下鉄の中で
 脱糞するようになった
 会社のデスクでも
 脱糞するようになった
 お得意先での商談中にも
 脱糞するようになった
 ところかまわず四六時中
 脱糞するようになった

 オムツをしても
 あっというまに溢れてしまうほど
 大量の脱糞を頻繁におこなうので
 仕方なくハセガワさんは
 下半身は全裸だ
 上半身はスーツにネクタイ
 足元はソックスに革のビジネスシューズ
 だが
 ズボンとパンツは穿いていない
 常に丸出しだ
 そして
 ほぼ常に脱糞している

 その点を除いては
 ハセガワさんには
 何の問題もないので
 とりあえずハセガワさんは
 脱糞し続けながら
 一生懸命働いている

 そんな
 ハセガワさんのひたむきな姿に
 みんなが心を打たれ
 セールスの成績はナンバー1になり
 社内の憧れのマドンナである
 サワダキョウコさんのハートも射止め
 脱糞していなかった頃の
 普通のハセガワさんからは
 想像もつかないほどの
 幸せを手に入れた



#36

 水の流れた痕が
 浴室にあって
 でも
 空気は
 乾燥している

 サボテンが
 にあいそうだ



#37

 階段を
 のぼったり
 おりたりしよう
 いっしょに
 手をつないでさ

 ねえ
 踊り場は
 なぜ
 踊り場っていうの

 わからないから
 とりあえず
 踊ってみよう



#38

 ことばなど信じない
 ことばで言い表わされたものなど
 なんの価値もない

 オートバイが走っていく
 という言い表わされたことばなど
 オートバイが走っていく
 という真実については
 なにひとつ語っていない

 美しい花が咲いている
 という言い表わされたことばは
 その花ほんらいの持つ
 瑞々しい美しさを
 なにひとつ語っていない



#39

 わすれかたを
 わすれました



#40

 はまなる という言葉を聞いて

 花丸 かと思ったら 違った

 はまなる とは

 浜鳴 と書く

 氷点下まで気温が下がった日の 夜明け前

 波打ち際の砂に 染み込んだ海水が凍って

 砂を踏むと 音が鳴る

 それが 浜鳴 だという

 嘘か 本当かは 知らない


自由詩 フラグメンツ #31〜40 Copyright 大覚アキラ 2005-10-28 17:54:42
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