裸の女
服部 剛
一枚の葉も無い
一本の細い木のように
突っ張った体がベッドの上に横たわる
焦点の合わない瞳
微かに呼吸する半開きの口
折れ曲がり固まった枝の腕
真っ直ぐに交差した両足
手首に刺した点滴の栄養のみで
生き延びる体が・・・・・
まぎれもない人間の姿がそこにあり
薄い胸の内で鼓動を続けている
個室に二人の男が現れ
入浴できない老婆の浴衣を脱がせ
お湯を湿らせた布で
首まわりから足の先まで
動かない体を黙々と拭き続ける
老婆は全身の皮膚を微かに震わせ
「 ありがとう・・・ありがとう・・・ 」
と無言の言葉を二人の男に語る
極限の状態に置かれた
焦点の合わない老婆の瞳は見ている
自分の体を拭く二人の男と
その間にいる
白い光の服を身に纏う幻の人影を
もう動くことの無い老婆の手に
幻の人影の手が そっと触れる
焦点の合わない瞳から 痩せこけた頬に 一滴の涙が流れる
* 自家版詩集「明け方の碧」(01年)より