花と源
木立 悟




雨のなかの長い影から
無数の別れの手が振られる
雨のなかの長い鏡が
雨を映して立ちつくし
幽霊のようにかがやいている


川を歩み 立ちどまり
水紋を見つめつづける光が
目をふせ 故郷を想うとき
山の頂にうっすらと浮かぶ
はじまりの道をあおぐとき


空を押しのけても空はあり
次の空から 次の空から
陽にも花にもはためきながら
空は現われ
重なりつづける


何かを盗むようなうしろめたさで
ひとつの花に触れるとき
すべての花がふるえだし
ふるえ ふるえ
触れては埋もれ
触れては埋もれ
ふるえに埋もれ
ふるえに昇り
そのままの姿で
花に抱かれ 立ちつくす


めくれあがり はばたきはためく
午後のものごとのふちどりや
忘れられた声や言葉や
息に憑かれた塵や埃が
かがやくままに
かがやくままにうたいはじめる


野にくずおれた巨大な枯れ木が
秋の桜に埋もれていて
触れるものを源へ連れてゆくとき
まばゆい影たち 鏡たち
縦にふるえる透明たちは
皆ひとつだけ花を身につけてゆく






http://members.at.infoseek.co.jp/warentin/kidati.htm


自由詩 花と源 Copyright 木立 悟 2005-10-25 13:53:01
notebook Home 戻る