泣けてくるわけ
大小島

風が吹いてきたから
泣けてきたわけではないけれど
夕方になって日が沈みきって青っぽい夜が来て
それが寒くなりかけた日の夜だったから
泣けてきたわけ。

犬がぼくを追い抜いた
ぼくが犬を見ると
犬がぼくを見た
だから泣けてきたわけではないけれど
その犬を連れたおばさんを
どっかで見たことがあって
ああ、そっか、五年もたったのかと考えて
泣けてきたわけ。

意味もなく走りたくなった
息がすぐ切れた
だから泣けてきたわけではないけれど
走ってるときに電話が鳴って、そんなの無視して
車を追い抜いて、でも信号で立ち止まって
すーっと息を吸ったら
やっぱり泣けてきたわけ。

ここはあのときのあそこじゃないから
胸の奥から気持のいい涙が
わいてくる。


自由詩 泣けてくるわけ Copyright 大小島 2005-10-25 01:37:05
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