お母さんのモンブラン
ZUZU

学芸会でぼくは
ぼくのお母さんを演じた。
ぼくの演じたお母さんは絶賛された。

でっぷり太っているが清潔である。
石鹸の匂いはしないが朝ごはんの匂いがする。
ぼくの間違えた答案を間違え方が正しいと誉めてくれる。
ぼくのぐらぐら揺れる乳歯を抜くために横っ面をひっぱたいてくれる。
ぼくが失恋して帰ってくると髪の毛を洗ってくれる。
子猫を拾ってくると悲しそうな顔をする。
いっしょにもういちど捨てにいくけれど結局ミルクを買っていっしょに帰る。
息子の成長に関してはいつも目を細めている。
息子が音楽を好きだというとすぐにおもちゃのピアノを買ってくれる。
だけど本当に欲しいのはエレキギターだと知ってがっかりする。
誕生日には山のようなモンブランを作ってくれる。
ぼくが眠れないときはぼくの父さんについてのつくりばなしをしてくれる。

『空想上の人物にしては、
生き生きとした実在感があふれている』という劇評がのった。
その新聞をスクラップして喫茶店の壁に飾ったのは
ぼくのお母さんの昔の恋人だったというマスターだ。

お母さんてどんな人だったの?
とぼくが聞くと、
すくなくともあんな人ではなかったな、とパイプをふかす。
でも…
でも?
おまえのユーモアはなかなかに好もしいものだよ。
きっとお母さんも天国で笑いころげたことだろう。

マスターのモンブランは素晴らしく美味しい。
あんまり美味しいので、めったに食べないことにしている。
今日はつい、食べちゃったけれど。
お母さん。




自由詩 お母さんのモンブラン Copyright ZUZU 2005-10-23 07:55:46
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