にわか雨
蒸発王


私と奴は                   僕と奴は
お世辞にも                   お世辞にも
仲良しとは言えなかった            仲良しとは言えなかった

皮肉を皮肉で返し               中傷を中傷で返し
嫌味を嫌味で塗り重ね             悪評を悪評で塗り重ね
触発すれば                  路ですれ違うなり
殴り合い                   脛を蹴り
見下すような視線を送り            含みで塗り固めた笑顔を送り
鼻で笑い                   嘲りをこめて笑い


       お互いに結構高いプライドを踏みつけた


普段                     普段
取り繕う                   友人すら誤魔化す
黒い部分のベクトルを             感情に貼り付いた裏地を

全て注ぎ込んだ                全てさらけ出した


              其れゆえに

              奴との間に

             嘘だけは無かった


普段優等生ぶった                    普段光りを宿さない 
貼りつけた白い笑顔を                  真っ黒い眼球が
私の前では真っ黒にするのが面白かった       僕の前では真っ白く歪むのが快感だった


           奴が痛い目を見るのは嬉しいけれども
                一番の深手は
           この唇の言葉でなければ気が済まない

              一番の痛みを与えるのは
             
              お互い以外には許さない



奴が私にそうであるように           奴が僕にそうであるように


だから                    だから

彼が殺されたと聞いて             血が止まらないと分かって

本当に憎たらしく思った            本当に悔しく思った


華も持たずに                 あお向けに転がって      
墓石に駆けつけて               夜空に吐息を飛ばして

墓石を思いっきり               鉄の味のする唇と
蹴りつけて                  呼吸器官を動かして

『甲斐性無しめ』               『ごめんね』 
                             

               笑った


             息が切れるまで      
               ずぅっと
              笑ってると



塩辛い

にわか雨が降り始めた


だって


晴れてるのに

ほら



顔がぐっしょり




濡れてしまっているんだから







自由詩 にわか雨 Copyright 蒸発王 2005-10-23 00:30:18
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