花葬
蒸発王


母にとって
父の面影を落とす
私は
悪そのものでした


父が何をした人だったのか
母がどんな目に合わされたのか
そんな小さな事は
どうでも良かったのです


ただひたすらに
私は母の憎悪を浴びて生きていました


母は私を打ち
家中の鏡を壊して
私が映す父の面影から逃げようと必死でした


そんな母を
私は哀れむと共に
愛しささえ感じていました


母を救えるのは
決して私ではないと感じながらも

私は母を護ろうと必死でした




そんな私の戦いもむなしく



学校から帰ってくると
母は鏡に首を突っ込んで死んでいました



私の身体には

母が生きていた証のように
打たれた跡の
どす黒いアザが残っていました


一人きりで弔いをすませ
庭の土に母を埋めて

私はこの時
初めて

手向けの花を
用意していない事に気づきました

家の中を引っ掻き回して
私は母へ贈る花を探しましたが

   
花は見当たりませんでした




でも
私は思い出したのです



おとぎ話で
悪者の血から花が芽生える事を


   滴り落ちる血潮から
   花が芽生えると思ったのです


私は腕に足に首に
刃を滑らせ

母の墓石に血を注ぎ



花を


たくさんの
花を


   赤い花を


母に贈ろうと思い

香る芳香の中で
マブタを閉じたのでした



********************************************************************

   薫風の吹くなか
   僕の近所で親子の死体が発見された
   母親は埋められてて
   子供の方は切り傷だらけだった
   
   奇妙な事に
   
   その周りには昨日までは無かった

   赤い
   カーネーション の群生が

   2人を包むように生えていたというだけで

   
   警察は事故死と
   自殺で終わらせた
   
   五月の第二日曜


   母の日の出来事だった
   
   


自由詩 花葬 Copyright 蒸発王 2005-10-20 23:16:59
notebook Home 戻る