原風景
捨て彦

コスモス
すすき
金木犀






青く
それはほんとうに青く
筆で掻き毟ったような雲と
焦点を目指して伸びていく高速道路の
今日は至って空が高い平日に


走る車
であるそれは
山と山が次々と被さり合い
きっと何十年も雨風にさらされた
四階以上が不要な場所を通りぬける

つまりやり過ごされることでしか思い出されない
くたびれた骨格の建物の
群れがそこにあって
もちろん
こんなところでおれは
しぬつもりも
いきるつもりもない








ここで降りようよ


    知らないところだよ





ここで降りようよ


    知らないところだよ








青く
それはほんとうに青く
ここには筆で掻き毟ったような雲と
焦点を目指して伸びていく高速道路


今日は至って空が高い平日に
人が一人死んだらしいと
思えるならなおさら良いと
話している最中はとても鼻先がむずがゆいのだ


こんにちわのタイミングを元気よく
外してくれたときにカラスがくわわと鳴いて
埃にまみれた
看板が壊れかかっている
おれたち以外は誰もいない
ラブホテルの
隅っこで





無人の




どこを見渡しても誰もいない
ラブホテルの
建築資材が置いてある
廃材は危ない
空が
道路がきれいに突き抜けていく
ラブホテルの
建築資材が置いてある寂れたビルばかりだ
無人
車は道路沿いに止めた
無人の
ブレーキの音がどこかに通じて
角を曲がる
カーブの緩やかな様子に

カーブの緩やかな様子に反射する
無人の
カビのついたカーペットの
カーブの緩やかな様子に反射する
誰もいない
無人の
誰もいない
風が少し吹く誰もいない


誰もいない
ラブホテルの
二階で






たぶんというかかくじつにちかい
それぞれの人脈の網の目の広がり

おれたちがここで交差していることはだれも知らないまま
そんなことに大して意味を見出す必要もないまま




そうしてまた
初めて目が合うとき





自由詩 原風景 Copyright 捨て彦 2005-10-19 01:33:37
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