揺れるだけ
炭本 樹宏

 悲しみのうちに少女がいた
 少女はなにも語らない
 その少女の秋が終わろうとしている

 彼女のむねの内にはたくさんの
 こぼれおちそうな夢がたくさんあった
 
 こころなきものがその少女の夢を奪っていった
 少女には泣くことはゆるされなかった

 今少女は凍える冬の訪れにおびえている

 友達と遊んでいても
 彼女は別の世界にいる

 ただ胸を痛めている
 大人達が作った世界ではいきていけない

 だれもその少女の悲しみを知らない
 少女の涙をぬぐってくれるのは
 ごみ捨て場にすてられていた犬のぬいぐるみだけだった

 夜には満天の星空を見上げ
 小さな手を合わせ
 つぶらな目でにじんだ月を眺めながら
 時が流れてゆくのを感じるだけだった

 彼女はまったく汚れていない
 汚れていないからこそ
 この世界をさ迷っている

 道端の花のように風がふけば
 揺れるだけなのだ


 


自由詩 揺れるだけ Copyright 炭本 樹宏 2005-10-18 12:44:33
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