一輪の花と共に…

 夜、仕事の帰りに川沿いにある歩道へと足を向けた。
右には車の通る大きな橋が見え、
左には山を背に高架線が見える。
その歩道へ降りる階段の中腹で足を止め、
腰を下ろした。

 山から吹き降りる風は肌に心地よく、
周りの草花を申し訳程度に揺らす。
上の車道からは死角に入り、
この闇の中で一人、
階段の中腹に腰を下ろす自分の姿は、
橋や川向こうからは見て取る事は出来ないだろう。

 煙草に火を点けた…

 ジッポの甘い香りと、
心地良い刺激が、口の中に広がり、
消えていく。

 川向こうでは、ライトアップされた工場が轟音を歌い、
流れる河は、光とせせらぎのハミングを贈る。
橋の上では不規則に、しかし、途切れる事無く、
高架線からは、時折、長い列の光のエールが舞う。
すぐ近くでは、手を振る草花と共に虫が歌っていた。

 もう一度、大きく煙草を吸い、灰を落とした。
火の移ったままのそれは風に舞い上がり、
オレンジ色に輝く蛍となって、その短い命を散らす。

 ふと、その先に一輪の花がある事に気づいた。
吹き続ける風にその身は揺れ、
白い花弁が月明かりに照らされている。

 もう少し、こいつと、
この歌を聴いていよう…

 そう思い、もう一本、煙草を手に取った。


自由詩 一輪の花と共に… Copyright  2005-10-18 08:12:31
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