青い封筒
服部 剛

駅の改札口から外へ出ると
繰り返し打ち上がる花火が
大輪の花を夜空に咲かせては散っていた

仕事を終えた男は
先週バーで隣り合わせた女と
待ち合わせた場所に向かっていた

日常の仮面の下に隠している
影の素顔で夜の街へと

商店街に並んだ店のシャッターが下りたところに
地べたに座った二人の青年がギターをき鳴らし
夜風の運ぶ唄声うたごえ
青春の色で光る矢となり
男の寂しい丸みを帯びた背中に傾いて刺さる 

遠い昨日に置いてきた感傷の記憶
花火の散った夜空に懐かしい場面が浮かぶ

(あの弾き語りの青年達のように
(仲間等と夜を明かした頃があった

(共にいた女の胸の内にぬぐえぬ闇に
(ひっそりと咲く真紅の薔薇を
(抱き寄せることもぎこちなく
(密かな想いばかりを胸につのらせていた

あの頃
刺さることの無かった恋の矢の代わりに
降り積もる雪の言葉で綴られた便箋びんせん
遠い昨日の女が微笑んだまま色褪せた一枚の写真は
青い封筒の中に息をひそ
もう長い間
男の部屋の机の引き出しの奥に封印されている

閉店したレストランの入口から
店員に握られたホースから放たれる水に
地面を流れる洗剤の泡は
にごったミルク色のさざ波で
よじれたタバコが無数に落ちたアスファルトを
むしばんでゆく

(一体何処の昨日までさかのぼれば
(遠く置き忘れた純粋を思い出すのだろう・・・

寂しい丸みの背中に刺さった
青春の色で光る矢は傾いたままに
夜風に運ばれる
弾き語りの青年達の唄声に背を向けて
静かに高鳴る鼓動を胸に殺し
男は女と約束した場所へ向かう
一夜の夢にいざなわれ 





自由詩 青い封筒 Copyright 服部 剛 2005-10-16 22:37:04
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