「幸せな夢を見たわ。それは、とてもとても幸せな夢」


幸せな、夢よ。
私は何もない世界でたった独りぼっち。
何かを叫んでも声にならない。だって訴えかける人がいないもの。
耳をすましても何も聴こえない。だって語りかけてくれる人が居ないもの。
目をこらしても何も見えない。だって笑いかけてくれる人が居ないもの。
泣こうとしても涙は流れない。だって慰めてくれる人が居ないもの。
足ぶみするだけで進まない。だって一緒に歩いてくれる人が居ないもの。
愛したいなんて思わない。だって抱きしめてくれる人が居ないもの。
だから私は死なないの。覚えていてくれる人が居ないから。
だから私は生きてるの。たった独りぼっちだから。
だから私は幸せだったわ。私にはなにもなかったから。


あの頃の私は不幸だなんて思ったことなんかなかったのに
あの頃の私は幸せだったはずなのに
あの頃の私には何もなくて、それでよかったのに
あの頃の私と今の私はほとんど同じなのに、どうして？



そう、ね。
あなたがいたから。
あなたがいないから。