手向け(骨)
蒸発王

俺はあの女が嫌いだった

あの女も俺が嫌いだった

あの女は俺のダチが愛した奴だった


【手向け】−骨−


ダチが死んだ

唖然とした

初めての喪服は
急すぎて買うヒマも無くて
結局
借りた

皆暗い顔をしていた

式中に
わざと
大声で泣いてやった

皆笑った

霊柩車に棺を運ぶ時
わざと
箱の角に頭をぶつけて
痛がってみた

皆笑った


ダチは
何時も
笑顔のど真ん中にいる男だったから


俺は捨て身で皆を笑わせた


なのに


あの女は笑わない
無表情をはっつけたまま



火葬場までの車が一緒だった



俺が運転して
あの女は助手席だった



半端な人数だったから
車の中は俺とソイツだけだった
タバコが苦手だと知りつつも
嫌がらせで
俺はタバコをザクザク食らった



煙が充満しても
あの女は眉一つ顰めない
咳一つ漏らさない



学生時代
ダチと俺を怒鳴りつけた
怒号も発さず


火葬場に
着いた


蝋燭みたいな
匂いの中

寝台にぶちまけられた
ダチの
骨は

白というよりも
銀色に見えた

その時

俺の横にいた
あの女が
真っ白な細い指で
銀骨を掴んで


何か


小声で呟いて


微笑んだ



悔しい事に
俺は何となく悟った

この銀色になったダチが欲しかったのは

俺がかせいだ
百人分の笑いではなく
この
不器用な女の
はにかんだ微笑だと

俺は何となく悟った



少し迷いながら
あの女の肩を抱いて


もっと前を向いて笑え  と


涙交じりの声で呼びかけてしまった




畜生め
俺の負けだ





自由詩 手向け(骨) Copyright 蒸発王 2005-10-16 15:00:21
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