輪想(無の地)
木立 悟




濡れたふたつの手が午後をつくる
坂の一本道
空へつづく曲がり角
高みの灰 地の白
遠くひろがるはざまを
雪が埋めてゆく



短い午後の晴れ間に
海を見ている鳥
たどり着く銀
変わりゆく銀
岩から 波から
低く飛び立つ羽
曇はやがて閉じる
はばたきが散らす雪
ふたつの手に溶ける



まだらの空が冷たく鳴り
曇は雨の遠さに還る
すべては灰にかたむき
地平線だけがかがやき
原と林は
長い影絵のように浮かぶ



何もない地に立ち
鐘の音を聴いている
砂の色は去ってゆく
遠く 明るい火が
道だけを燃している
湖を囲む羽の群れが
空へ赤くはばたいてゆく
炎を映す水の上に
木の舟は漂い
波を 水紋を
けだものの国の門を
ひらいてゆく








自由詩 輪想(無の地) Copyright 木立 悟 2005-10-15 17:55:17
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