ひとつの島
まどろむ海月


青い大海原に浮かぶ
ひとつの島であることは さびしい

 酷暑の夏も 厳寒の冬も
 狂瀾怒涛の嵐のさなか
 雷鳴と大波に打たれ大風に曝されても 独り

 降りやまぬ雨の中でも 立ち込める濃霧の中でも
 月も星も見えぬ 深い深い闇の中でも 独り

 秋の空を渡り鳥たちが 彼方に向かって飛び去っていくときも
 雪が降りしきり みわたすかぎりの暗い海面に
 音もなく ただただ 消え続けてゆく…
 その雪の中にも 独り 残されて

けれども 最もつらく さびしいのは  

 茜色の夕焼けが大空と海面を彩るとき
 澄み渡った夜空を 片雲が流れ
 月と星たちが煌めきながら 久遠の水晶球を廻っていくとき
 すみれ色の空間に星たちの輝きは薄れ 曙がはじまるとき
 ささやかな花畑に色とりどりの花が咲き乱れるとき
 小さな木々や草たちが新緑に萌えるとき
 初夏の光を浴びて 魚たちが銀色の飛沫を上げて 戯れるとき…

このかけがえのない美しさを ほかの誰が わかってくれるだろうか

そのとき 香しい雨のように
やさしい光天使の声が 降りてきた  

 深い海の底に 君の秘密がある
 君は 独り浮かぶ存在ではなく
 大地につながっている

 草や木が しげみの陰の小さな白い動物が
 海藻に 卵を産みつける魚たち 貝や蟹
 数知れぬ小さな生き物たちが
 君のなかに生きている  

 だから
 「 ちいさな島でいることは すばらしい
   世界につながりながら
   じぶんの世界をもち
   かがやくあおい海に かこまれて 」

幾たびも季節がすぎ
ある日 くじら が通りかかった
島は ことづけを 頼んだ 

 もし ひろい大海原で
 孤独に 震えている
 ちいさな島を見かけたら
 こう伝えてほしい
 「 ひとつのちいさな島でいることは すばらしい
   なぜなら ………              」

くじら は ワカッタ とでもいうように
大きなひれをあげて ゆっくりと波間をたたくと
悠然と 水平線の彼方に 姿を消していった





(最初の「  」の部分はG・マクドナルドの『ちいさな島』<谷川俊太郎訳>から、そのまま引用しています。)



自由詩 ひとつの島 Copyright まどろむ海月 2005-10-14 10:57:21
notebook Home 戻る  過去 未来