すいとんエクトプラズム
大覚アキラ

乳白色の湯気が勢いよく立ちのぼる
土鍋の底から沸き立つあぶくどもが
我先にと曖昧な螺旋形の魂に姿を変えてゆく

久しぶりね
すいとんなんて

妻はそう言って微笑むが
土鍋から吐き出される螺旋形の魂が気になって
私は最早すいとんどころではない

あなた好きだったでしょ
すいとん

そうだ妻の言うとおり
すいとんは私の大好物だったはずだ
だがこれは本当に私の知っているすいとんなのか

ほら冷めないうちに食べてね
すいとん

妻は螺旋形の魂を
箸の先で素早く捕まえると
暴れるそれをポン酢につけてツルリと飲み込んだ

あらおいしいわね
このすいとん

私も妻を真似て魂を捕まえようとしたのだが
結局上手くいかず
ほとんど全部妻が食べてしまった

ああおいしかったわ
すいとん

真夜中
私の隣で寝ている妻の唇から
羽化した蛾のように無数の魂が飛び立つのを見た






自由詩 すいとんエクトプラズム Copyright 大覚アキラ 2005-10-13 13:15:40
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