シリーズ「おじさんと僕」3
ベンジャミン

(その3 園芸屋のおじさん)


おじさんは良く独り言をいっているのだけど、実はそれが独り言ではないということに気づいたのはつい最近のことだ。

植物に音楽を聞かせるときれいな花が咲くという話を聞いたことがあるが、おじさんにそのことを話したら笑われてしまった。


「花に気持ちがあるのなら、俺はずっとふられっぱなしだよ」と、おじさんは言う。
 そして
「最近じゃぁ、育ててるよりも育てられてる気がしてならないよ」と、言って笑う。


いつも花にむかって何を話しかけているのかを聞いてみたら
「そいつは言えねぇなぁ、人に言えないことをいつも話しかけてるんだよ」と、
日に焼けた顔を少し赤らめて、はぐらかされてしまった。

ただ、
「花が咲けばわかるんだ」と、
「花が咲けば、そのときだけは何かわかったような気になれるんだ」と、
目じりのしわを深めながら微笑んでみせるおじさんは、

きっと誰よりも花の気持ちを知っているのだろうと思った。

   
    


自由詩 シリーズ「おじさんと僕」3 Copyright ベンジャミン 2005-10-09 19:37:08
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