シリーズ「おじさんと僕」1
ベンジャミン

(その1 時計屋のおじさん)


裏通りにある時計屋のおじさんは、まるで手品師みたいに器用だ。

おじさんの大きな手からは想像もつかないような、ちいさな部品をちょこちょこといじると、さっきまで動かなかった時計がコチコチと動き出す。

おじさんの背中のうしろには、おじさんよりも歳をとった時計がかけられていて、それは全部おじさんが直したものだと自慢げにはなしてくれた。


「どんな時計でも直してみせるよ」と、おじさんは言う。
 けれど
「時計は直せても時間はあやつれないよ」と、言って笑う。


おじさんの手の中で嬉しそうに時計が動いている。

その一秒ごとに刻まれてゆくものは一瞬と呼ばれるものだけど
ひとつゼンマイを巻き終えるたび
おじさんはそれをもったいなさそうに見つめながら
その深いしわくちゃの笑顔に、ひとつひとつ刻もうとしていて


その笑顔の中には
見えるはずもない時間が見えるような気がする。



    


自由詩 シリーズ「おじさんと僕」1 Copyright ベンジャミン 2005-10-04 15:19:02
notebook Home 戻る