あがなう海へ
しゅう
人が産まれる階段で
僕とライオンは初めてキスした
机の隙間から女の子の声がのぞいたけれど
僕とライオンは手を握ったままで
窓からは夏の光がみえる
昼間なのにここでは暗がりがたくさん
目を失ったライオンは階段から下りられないので
僕にすがってくれるかしら
骨とピンクの心臓でできたマネキンのような僕に
それなら君の光をフォークで食べたい
残さないできちんと汁まで
ライオンは自転車に乗る
荒れ果てた農道を
うしろにちょこんと僕を乗せ
ゆっくりゆっくり海へと向かう
魚もいない
誰もいない
砂浜にタイヤを取られながら
僕とライオンは波打ち際をこえて
目に包帯を巻いたまま
波の音だけを頼りにライオンは海へと向かう
足までつかる頃になっても
僕とライオンは海へと海へとゆっくり向かう